紫外線対策を調べていると、どこかで必ずこの数字に出会います。
「アスタキサンチンの抗酸化力は、ビタミンEの約1000倍」
素直にすごいと思いますよね。1000倍ですから。控えめに言っても圧勝です。
ただ、この数字を見て「じゃあビタミンEを1000粒飲むかわりにこれ1粒でいいのか」と思った人は、いったん待ってください。この1000倍は、そういう意味ではありません。
この記事では、アスタキサンチンについて分かっていることと、まだ分かっていないことを、宣伝抜きで整理します。商品の紹介はしません。
結論を先に
3つだけ先に言っておきます。
- 1000倍という数字は、試験管の中で測った比較です。飲んで肌に1000倍効くという意味ではありません
- ヒトを対象にした研究は存在します。ただし規模は小さく、決着がついたとは言えない段階です
- 塗る日焼け止めの代わりにはなりません。これは販売している企業側も認めています
以下、順番に説明します。
「アスタキサンチンは効果ない」は本当?よくある疑問
「アスタキサンチン 効果ない」と検索する人は多いようです。先に、よくある疑問にまとめて答えておきます。詳しい根拠は、このあとの章で説明します。
効果ないの?
「効果がない」とも「効果がある」とも、まだ言い切れない、というのが正直な答えです。ヒトを対象にした研究はありますが、規模が小さいものが中心で、決着がついたとは言えない段階です。少なくとも、「ビタミンEの1000倍だから飲めば肌が守られる」という期待どおりの働きは、確かめられていません。
ひとつだけはっきりしているのは、塗る日焼け止めの代わりにはならないということです。
長く飲み続けても大丈夫?
研究の多くは、数週間から数か月の期間で行われたものです。年単位で飲み続けた場合のデータは限られています。飲むのであれば、商品に書かれている1日の目安量を守ることが基本です。
50代など、年齢で違いはある?
年齢別に効果を比べた、はっきりした研究は見当たりませんでした。「50代だから効く」「若いから効かない」といった話には、今のところ根拠が乏しいと考えた方がよさそうです。
飲む前の注意点は?
- 商品に書かれた1日の目安量を守る
- 薬を飲んでいる人、持病がある人は、医師や薬剤師に相談してから
- 原料にエビ・カニ・オキアミなどを使った商品もあるため、甲殻類アレルギーの人は原材料表示を確認する
- 「機能性表示食品」なら、何が届け出られているかを確認する(届出と審査の違いは「機能性表示食品とは?届出と審査の違い」で書いています)
そもそもアスタキサンチンとは何なのか
サケの身、イクラ、エビやカニの殻。あの赤い色のもとになっている天然の色素です。カロテノイドという色素グループの一種で、トマトのリコピンやニンジンのβ-カロテンと親戚にあたります。
面白いのは、サケが自分で作っている色素ではないという点です。サケはヘマトコッカス藻という微細な藻を食べていて、その藻が持っていた色素が体に蓄積した結果、あの色になっています。産地直送どころか、又聞きの又聞きみたいな話です。
そしてこの藻がなぜアスタキサンチンを作るかというと、紫外線のストレスから自分を守るためとされています。紫外線対策の文脈でこの成分が出てくるのは、そこに由来しています。
もともとは養殖魚の色を鮮やかにする飼料添加物として使われていた成分で、抗酸化素材としてスキンケア領域で注目されるようになったのは2000年代以降です。歴史はそこまで長くありません。
「ビタミンEの1000倍」の正体
さて本題です。
この数字は原料メーカーが公表しているもので、出典によって幅があります。「約550〜1000倍」とされることもあれば、「1000倍」と言い切られることもあります。まずこの時点で、精密な数値ではないことが分かります。
何と何を比べた数字なのか
重要なのは、何を測った1000倍なのかです。
原料メーカーの説明を見ると、比較されているのは「脂質の過酸化を抑制する力」です。つまり、脂が酸化するのを抑える働きを、試験管レベルで比べた数値ということになります。
活性酸素にはいくつか種類があり、そのうち「一重項酸素」を除去する力については、リコピンの1.6倍、β-カロテンの4.9倍といった別の数字が示されています。こちらは1000倍ではなく、一桁の倍率です。
つまり「1000倍」は、特定の指標を、特定の条件下で測った、ひとつの数字にすぎません。
なぜこれが「飲んで1000倍効く」にならないのか
理由はシンプルです。試験管の中で強いことと、口から飲んで体の中で同じように働くことは、まったく別の話だからです。
飲んだ成分は、消化され、吸収され、血流に乗り、目的の場所に届いて、はじめて何かをします。この過程でどれだけ届くかは成分ごとに違います。試験管内の抗酸化力がそのまま体内での効果に変換されるなら、話はずっと簡単なのですが、そうはなっていません。
「1000倍」は嘘ではありません。ただ、多くの人が思っている意味とは違う、というのが正確なところです。
ヒトの研究はどこまで進んでいるのか
では、実際に人が飲んだ研究はあるのでしょうか。あります。
紫外線関連でよく引用されるのは、健康な成人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です(Ito N, Seki S, Ueda F. Nutrients. 2018)。プラセボ対照の二重盲検なので、研究デザインとしてはしっかりした部類に入ります。
内容はこうです。
- 紫外線を照射して、肌が赤くなり始める紫外線量(MED)を測定
- アスタキサンチン摂取群11人、プラセボ群11人に分けて9週間摂取
- 8週目に再度紫外線を照射してMEDの変化を確認
- 9週目に、紫外線を当てた肌と当てていない肌の水分量を測定
結果として、より強い紫外線を当てないと肌に赤い炎症が生じないこと、紫外線を照射した部位の水分量の低下が抑えられたことが報告されています。
この研究をどう受け止めるべきか
ここが一番大事なところです。
被験者は合計22人です。
11人と11人。研究として意味がないわけでは決してありませんが、これをもって「効果が証明された」と言うには小規模すぎます。皮膚科医の解説でも、アスタキサンチンの臨床研究はサンプルサイズが小さいものが多く、今後さらに大規模な検証が求められる段階だとされています。
紹介記事の多くは「ヒト試験で確認されています」とだけ書きます。それは事実です。ただ、22人だったことまで書いている記事は、私が探した範囲ではほとんどありませんでした。
肌の水分量に関する別の研究(アスタキサンチン3.57mg摂取で肌の水分量が上昇したとする無作為化二重盲検試験)もありますが、こちらも規模は限定的です。
分かっていないこと
- 美白・シミへの効果:メラニン合成酵素の働きを抑えるという報告はありますが、これは主に試験管内や動物での研究段階です。ヒトでの美白効果については、十分なエビデンスが蓄積されていないのが現状とされています
- 長期に飲み続けた場合どうなるか:数週間から数ヶ月の研究が中心で、年単位のデータは限られます
- どのくらいの量が適切か:製品によって配合量は3mg、4mg、6mgとばらつきがあります
医薬部外品の有効成分ではない、という事実
意外と知られていない点をひとつ。
アスタキサンチンは、日本の医薬部外品の有効成分としては認可されていません。 あくまで化粧品の配合成分という位置づけです。
これがどういう意味を持つか、比較すると分かりやすくなります。
| アスタキサンチン | ナイアシンアミド | |
|---|---|---|
| 医薬部外品の有効成分 | 認可されていない | シワ改善の有効成分として承認済み(2018年) |
| 化粧品での効能表示 | 承認された効能をうたえない | 医薬部外品なら承認範囲内で表示可能 |
つまり、シワやシミに対する働きという意味で「国が認めた」という段階にあるのはナイアシンアミドの方で、アスタキサンチンはそこには到達していない、ということです。
これは優劣の話というより、制度上の位置が違うという話です。ただ、広告を読むときには知っておいて損のない区別です。
では、サプリはどう扱われているのか
ここで疑問が湧くはずです。「でも紫外線対策をうたったサプリを見たことがある」と。
あります。ただし、それらは「機能性表示食品」という枠組みで、消費者庁に届出をした商品です。届出をした商品は、届け出た文言の範囲でなら機能を表示できます。
ここで注意したいのは、届出は国による個別の審査ではないという点です。事業者の責任において届け出るもので、特定保健用食品(トクホ)のように消費者庁長官の審査を通ったものではありません。この違いは商品パッケージにも明記されています。
制度そのものについては別記事で詳しく扱っています。「国が認めたサプリ」という理解は、正確ではありません。
→ 「じゃあ機能性表示食品って何なの?」と思った方はこちら:機能性表示食品とは?届出と審査の違い
海外での評価
参考までに、飲むタイプの日焼け対策製品全般について、アメリカのFDAは、紫外線防止効果の科学的根拠が乏しいにもかかわらず日焼けを防止すると宣伝しているとして、複数のブランドに警告文を送っています。
国内でも、皮膚科医の中には、飲むタイプの製品について実用的な日焼け止めとしてはほとんど役に立たないと明確に述べている医師がいます。
一方で、機能性表示食品として届出をしている企業側も、塗る日焼け止めの代替にはならず併用が前提である点は明記しています。ここは賛成側も反対側も一致しています。
面倒くさがりな男性なら、最低限これだけ
【最低限】
- 「1000倍」という数字を見ても、それが試験管の中の比較だと知っておく
- サプリより先に、塗る日焼け止めを習慣にする
【もう少しやるなら】
- 「機能性表示食品」と「いわゆる健康食品」の違いを知っておく
- 商品を見るとき、機能性関与成分が何mg入っているかを確認する
【さらにやるなら】
- 気になる商品があれば、消費者庁のデータベースで届出番号を調べて、どんな文言で届出されているかを自分で確認する
3つ目まで来ると、もう普通の男性の範囲を超えて美容ガチ勢の入口ですが、やってみると意外と面白いです。
まとめ:飲む前に、塗る
アスタキサンチンは、怪しい成分ではありません。ヒトを対象にした研究もあり、機能性表示食品として届出されている商品も実在します。
ただ、この記事で見てきたとおり、
- 1000倍は試験管の中の話
- ヒト試験は22人規模
- 医薬部外品の有効成分ではない
- 塗る日焼け止めの代わりにはならない(これは全員が認めている)
というのが現在地です。
日焼け止めをまだ習慣にできていない人が、サプリから始めるのは順番が逆です。 塗る対策には、環境省が推奨する具体的な方法があり、効果もはっきりしています。まずそちらを固めてからで、まったく遅くありません。
次に読む記事
- 「そもそも自分に日焼け止めって必要なの?」 → 男性に日焼け止めは必要?
- 「機能性表示食品って、国のお墨付きじゃないの?」 → 機能性表示食品とは?届出と審査の違い
- 「サプリ以外に、内側からできることはある?」 → 体の内側からできる紫外線対策はある?
参考資料
- 富士化学工業「アスタキサンチンの魅力」
- 富士フイルム「アスタリフト サプリメント ホワイトシールド」(届出表示と研究の概要)
- Ito N, Seki S, Ueda F. The Protective Role of Astaxanthin for UV-Induced Skin Deterioration in Healthy People. Nutrients. 2018
- こばとも皮膚科「アスタキサンチンとは?効果・副作用から化粧品での使い方まで解説」
- 肌のクリニック「飲む日焼け止めの効果はないに等しい」
- 消費者庁「機能性表示食品について」
本記事は一般的な情報の紹介を目的としており、特定の商品の効果を保証・断定するものではありません。本記事で紹介した研究は、いずれも限られた条件下で行われたものです。健康状態に不安のある方、治療中の方、薬を服用中の方は、サプリメントの摂取について医師にご相談ください。


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